トランプ劇場 ⑧動かない国際機関

山口大学経済学部同窓会

鳳陽会東京支部

【2025年8月 トピックス】

◆「相互」関税にあらず

止まないロシアのウクライナ攻撃、止まないイスラエルのガザ空爆、米ロ首脳会談、米・ウクライナ首脳会談

そうした中でのダウ(株価)最高値更新・・・

国内では猛暑、洪水、高校野球、そして日韓首脳会談・・・

次々と重なる出来事の中で、トランプ関税はもはや昔の話になったかの感があり、ニュースにも取り上げられなくなった。

しかしこの先、各国でトランプ関税の負のインパクトを消化しようとすれば、それぞれの国に問題が生じることになる。

その結果、世界の経済成長率が鈍化し、マイナスの影響は回り回って米国にも確実に及ぶ。

◆ゲームチェンジ

日本にとって大どころの自動車関税。

「25%から15%になってほっとしている」・・・というような問題ではない。

自由貿易の盟主だった米国がゲームの仕方を変えた。

ルールによって自由貿易で繁栄をもたらしてきたが、物流に水を差す関税を乱暴な形で一方的に課し、これまでのルールではなくディールで対応しようとするトランプ大統領。

報道機関も「相互」関税という、トランプサイドが使う言葉を無批判に使うべきではない。

一方的なトランプ関税なのだから。

こうした貿易交渉、これはルール違反だろう。

いや、トランプ大統領がやっていることはそもそも貿易交渉ではない。

プロレスに近い。しかも大変無礼なプロレスだ。

日本が同じことをやれば、どうなるか。

世界各国から、とんでもないブーイングが起きること必定。

しかし、「大国のやんちゃなリーダー」がやれば、みな黙る。

これいかに。

やんちゃぶりは米国内でも然り。FRB議長(中銀総裁)に対する辞任要求、労働統計をめぐる労働省の担当局長解任・・・

トランプ大統領のすること・なすこと・とんでもないこと、これは世界の大国のパワーゲームの構造を理解するうえで、また米国内の力学構造を解明するうえで、ある意味とても勉強になる。

◆WTO

そうは言っても殿の「やんちゃ」を止める国際機関はないのか。

自由貿易を守る国際機関があるだろう。

そう、ジュネーブのWTO(世界貿易機関)だ。

貿易をウォッチする国際機関たるWTOは何をしているのか。

手を下さないのか。

厳しいペナルティーを科さないのか・・・

WTO加盟国には最恵国待遇という規定がある。

WTOはWTO加盟国である米国に与えられた有利な条件を他の加盟国にも適用されという規定を、改めて米国に通告すべきだ。

少なくともこれがWTOの最低限の役割ではないか。

これまで、最大の出資国でリーダーは米国であった。

米国からこうした大統領が出てくること自体、想定していなかったはずだ。

WTOのトップは誰だ。

◆スパチャイ氏

面識のあるスパチャイ氏がかつてWTOの事務局長になったことがある。

外地勤務のころ、T王国の中央銀行の副総裁だったスパチャイ氏のところに、インタビューに行ったことがある。教養のある、おとなしいジェントルマン、スパチャイ氏。

副首相も歴任し、2002年にはWTO(世界貿易機関)の事務局長へ就任した。

(2005年にはUNCTAD(国連貿易開発会議)の事務局長も歴任)

そのスパチャイ氏が数か月前、日本のマスコミからのインタビューに、次のように答えていた。

「今回のトランプ関税はWTOの基本原則であり、関税などの最も有利な待遇を全ての加盟国に適用する「最恵国待遇(MFN)」のルールにも反する。第1次政権での関税政策でも米国に投資が促されたとは言い難い。

関税政策が長引けば米国は世界貿易に占めるシェアを落とすだろう。国内では3~6か月以内に深刻なインフレが起きるはずだ。

各国は冷静に話し合い、相互関税が破滅につながることを明確に訴える必要がある。」

・・・そのとおり。

しかしトランプ大統領は各種国際機関からの脱退を進めており、WTOも例外ではない。WTOへの拠出金も凍結している。

◆トランプ後は・・・

桁違いのことをなさるトランプ大統領殿。

ターゲットにしているのは1年後の中間選挙なのか。

いや、掟破りの3選かもしれない。

3選が叶わないようなら、米国に平和な世界が戻ってくるのか・・・

いや、副大統領が控え、構えている。

バンス副大統領が。

トランプ氏より読みにくい。

かえって厄介なことにならなければ良いのだが。

(学23期kz)

スパチャイ氏
WTOのロゴ

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