◇序章
1971年、私は福岡市でロックミュージカル「ヘアー」を観た。
テーマは自由と反戦。ロックバンドが大音量で演奏する中、
若者たちが舞台で歌い、踊り、躍動する。
感動した。
―よし、山口でもやろう。
山口大学経済学部2回生だった私は決意した。
まず、山大の演劇部に公演を提案した。
だが、当時の学生演劇はアングラ劇や不条理劇が主流であり、一発で却下された。
―上等じゃないか。俺たちだけでやるよ。
まず、ロックバンドを編成した。エレキギターを弾く学生はたくさんいた。
すぐにバンド仲間が集まった。
次は役者だ。男女の学生に呼びかけ、なんとか役者が勢ぞろいした。
経済学部、医学部、文理学部、教育学部、農学部・・・。
オール山大で取り組んだ。
◇けいこの日々
亀山校舎の経済学部講堂(格調高い木造講堂)でけいこを始めた。
音響や照明は演劇部から借りた。
出演する学生は大半がミュージカルも演劇も未経験だった。
台本の読み合わせから始まる。セリフを覚えて舞台に立つ。
ロックバンドの生演奏に合わせ、歌い、踊る。
私が演出兼役者で仕切った。
数か月、けいこを重ねた。本番を想定した、通しけいこもうまくいった。
これなら、大丈夫だ。さあ、本番だ。
◇圧巻のフィナーレ
公演当日の夜。会場の経済学部講堂は満席となった。
ロックバンドの生演奏が大音量で響く。照明が明るく舞台を照らす。
幕が開き、ロックミュージカル「ヘアー」が上演された。
芝居が終わった。出演者全員が舞台に立ち、観客に手を振る。
大きな拍手が沸き上がる。幕が閉じられた。照明が落ち、会場は暗くなる。
観客が客席から立ち上がりかけたそのとき、突然、ロックバンドが再び、演奏を始めた。
また、幕が開く。出演者が勢ぞろいし、主題歌を歌う。観客は手拍子で
応える。そのときだ。役者が舞台から客席に飛び降りる。観客とともに
歌い、飛び跳ねる。学生たちは踊り狂った。圧巻のフィナーレ。
経済学部講堂に若いエネルギーが満ちていった。
その後、経済学部講堂は経済学部の平川移転に伴い、取り壊された。
おそらく、この夜のロックミュージカルが最後の祝祭となったのではないだろうか。
(元山口大学経済学部生 S)