学生時代に通ったメシヤ。春来軒のように、当時にも増して流行っている店があるのは嬉しいことだ。数々の危機を乗り越えてきたに違いない。
しかし、一番の繁華街だった道場門前や湯田温泉界隈の名店のほとんどが蒸発してしまったのは何とも残念だ。
今回も、昔お世話になった店を50年ぶりに振り返ってみたい。
◇利平
湯田温泉街から少し入った落ち着いた店で、「オトナ」が行く店だった。学生が通う一般食堂とは異なり、少しばかり敷居の高い店だった。
暖簾をくぐるにあたり、暗黙の了解があったような気がする。
1. 学生と悟られない身だしなみで入店すべし
2. 連れを伴うべし
3. 友人見つけた際には目礼にとどめるべし
4. 騒ぐべからず 大声での談笑は慎むべし
5. 店内での割り勘精算は控えるべし
◇雑炊とシナ天
店の看板料理は雑炊だ。雑炊が出来上がるまで結構時間がかかる。この間、「つなぎ」として注文するのが「シナ天」だった。このシナ天、正体をとどめた具材はほとんど見当たらず、小麦粉を練ったものを油で揚げて膨らませた、ちぎり揚げだ。かすかに魚介類の風味があり、一緒に付いてくる上品な小皿に入った香草塩もどきに、少々絡めて食す。
結構ビールに合うのだ。
抵抗のない食感。それもそのはず、中をみるとスポンジ状になっている。我々は皮肉も込めてその一品を「空気の天ぷら」と呼んでいた。
メインの雑炊。
運ばれてすぐは煮立っており、手が出せない。少しずつ冷やしながら、すぼめた小口に運ぶ。
定食のどんぶり飯を食うが如く、ガッツリというわけにはいかない。
この雑炊、育ち盛りの男子学生にとって物足りないのは分かっている。しかし、おとなしく我慢していた。
これも「オトナ」の流儀。暗黙の了解の一つであった。
(学23期kz)