思い出のワンゲル

湯田温泉駅で見たその先輩は、まだ春だというのに赤銅色に日焼けしていた。バッグからラケットのグリップが覗いている。まぶしく見えた。

山口に行くことを決めたもののまだ鬱屈した気持ちをぬぐえなかった私は、大学ではスポーツをやりたいと強く思った。

 中学・高校と何もしてこなかった者が運動部に入ることは容易ではない。消去法でワンダーフォーゲル部に入部した。週4日およそ1時間のトレーニングであることも魅力的だった。(その後、土日は山に連れて行かれ、月曜日は体が痛くて動けないことを知った。)

 新人歓迎登山で鳳翩山の麓にテントを張り夜更けまで楽しく語らった後、さあ寝ようとなった時、女性の先輩が当たり前のように自分の隣に寝たのには驚愕した。寝袋で隔てられているが横に女性がいる。緊張で眠れなかった。(その後、すぐに慣れたが・・)

因みに、テントに定員オーバーで寝る時は、リーダーは「目刺し」と指示をする。その時は頭と足を交互に並んで寝る。この時気を付けておかないと寝相の悪い隣人の足で頭をけられることがある。女性だっていびきもかくし、寝相の悪い人もいる。人生をちょっぴり知った。

 1年生最大の試練は5月下旬にやってくる「錬成」だ。1泊2日の行程で山に連れて行かれるのだが、1回目は25㎏、2回目は30㎏以上の重さを担いで山を歩き通さねばならない。部室に風呂屋の体重計がある意味がやっと分かった。与えられたリュックサック(キスリング)を見てその大きさに驚いた。金大中を拉致したリュックサックとはこれに違いないと思った。

 担いだ当初は何とかなりそうに感じた重さだが、1時間2時間と経つうちに肩に食い込んでくる。3時間4時間もすれば発狂しそうな苦しみになってくる。何度大声を上げそうになったことだろう。(その後、社会人になって「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし=家康」を知るのはまだ先のことである。)

段々腕がしびれてくる。休憩で荷物を降ろせば回復するが、徐々にその回復も鈍ってくる。いわゆる「ザック病」だ。私は結局このために夏合宿に行けなかった。

 夏休みが終わって復帰するかどうか迷ったが、同期が皆誘ってくれた。優しい仲間だった。それからは、怪我をしない体づくり、山でバテない体づくりを目指して日々のトレーニングに打ち込んだ。年が明けて屋久島での春合宿、そして初めて参加する南アルプス縦走夏合宿を余裕をもってこなすことが出来た。やっと同期の仲間に追いつけた気がした。

(元ワンゲル部 A)

                                    以上