上がらない日本の賃金③ 

労働側の要因 その1

厚生労働省の統計によると、日本の平均賃金は1997年以降、上がっていない。むしろその時から10%も下がっているのだ。

新型コロナによる物流停滞やロシアのウクライナ侵攻を契機とする資源高に加え、円の対ドルレートが20年ぶりに一時130円を超え、生計費の上昇が見込まれる中、賃金が上がって行かなければ教科書的にはスタグフレーションが待ち構えている。

これではいけない。

本稿では日本の賃金の上昇を阻む、働き手側の要因について考える。

 ◆給料は会社任せ

1980年代の経済的成功により、あらゆる方面で日本が賛美された時期がある。労働制度、雇用慣行もその例に漏れず、終身雇用、年功序列、組合別労組のいわゆる「三種の神器」が日本的雇用制度として国際的にも評価された時代があった。バブル崩壊後もこうした雇用慣行が続いたことで、結果的に雇用の流動性が阻害されることとなった。

働く側の意識も「会社に任せておけば大丈夫。年功序列で給料は毎年上がって行く」という意識があとを引いた。

多少古いデータになるが、人材系シンクタンクが「仕事をする上で大切なこと」を問うた国際比較可能なアンケート調査結果(2012年)をみると、欧米諸国や途上国では「高い賃金・充実した福利厚生」と答えたサラリーマンが70~80%を占めたが、日本人の会社員は39%と突出して低かった。むしろ、賃金よりも「会社での人間関係」、「自分の希望する仕事内容」と答えた者が50%程度と、賃金は最重要の関心事ではないとの結果が示された。

 こうした回答結果は、日本では他の企業での賃金水準が必ずしも明らかではなく、自分の置かれている客観的な賃金水準についての認識がない、ということが密接に関係しているのかもしれない。

 雇用の流動性の低い日本では、同業種・他企業の賃金・福利厚生水準が一般的に比較困難であることが、会社に対して賃金引上げ要求を難しくしている面もあるのではないか。

 ◆学び直しに消極的

企業経営にあたっては、環境の変化に従って、利益の多いところでビジネスをするのが鉄則だ。

その際には雇用者をより付加価値の高いところ、より競争力の高いところといったところに配置転換することが避けられず、それに伴い、雇用者も新たな事業に即応したスキルを身に付ける必要がある。

こうした学び直しに積極的なのが北欧諸国だ。休職に追い込まれた北欧のサラリーマンがITを学び直し、米国の巨大IT企業で高給をとり、働き始めた例が先日新聞紙上で紹介されていた。

他方、日本では職業訓練というと暗いイメージがある。「失業ゆえの職業訓練」というイメージだ。

なぜか。

終身雇用の日本では一般的に就職と就社は同義語で「失業」とは無縁の社会であり、多少荒っぽい言い方をすれば、波はあったものの、高度成長期以降バブル崩壊まで学び直すこともなく、安泰ともいえる完全雇用時代が続いたる。このため、失業や転職に必要な職業訓練は、事実上例外的なものと位置づけられてきたのではないか。

しかし、事業環境が激しく変化し、他の先進国とも、また追い上げる途上国とも激しい競争を強いられる時代にあっては、学び直しをしなければ良い職を得られず、経営サイドも生産性上昇、それに伴う利益も期待できず、世界の潮流にも追いつけない。

各種アンケート調査結果でも、日本人は新たな分野の知識を習得する「学び直し」に対して消極的だという結果が出ている。

なぜだろうか。

これまでは職場の先輩がOJTで仕事を教え、新入社員は先輩に付いて仕事の仕方を覚えた。こうしたビジネスモデルが変わらないことを前提としたOJTは年功序列制度と相性が良かったのだ。

しかし事業環境が急速に変わったことに伴い必要な習得技術が変わり、先輩方はこれまでのように後輩にOJTで教えることが難しくなってきている。

最近ではこれまで先輩からOJTで育ってきた現在の管理職の層が、積極的に学び直しをする意識が希薄だとする

見方を目にする機会が増えたように思う。

(学23期kz)