続・人間ドックのすすめ②

 人間ドックで腹部大動脈瘤が見つかった。

昨年7月、私は大学病院で大手術を受けた。手術前に行った全身の精密検査で、今度は冠動脈(心臓を動かす大切な動脈)に疾患が見つかる。3か所が閉塞寸前だという。青年外科医の勧めで、冠動脈のバイパス手術を行うことになった。

◇驚くべき遭遇

手術を前にした昨年11月の週末、私は日比谷公園を訪れた。陽光を浴びてベンチに座り、友人と話し込んでいた。

隣のベンチに青年が座った。彼は感染防止のため、マスクをしているが、容貌があの青年外科医によく似ている。だが、まさか本人とは思わなかった。そのとき、青年の携帯電話が鳴った。どうも病院とやりとりしているようだ。声の記憶。間違いない。

電話が終わった。私は「先生」と声をかけた。先方も驚いている。

偶然、青年外科医と患者が日比谷公園で出会う可能性はあるかもしれない。だが、同じ日、同じ時刻に隣のベンチに座るとは・・・。

―この青年は天が遣わした医師ではないのか

 帰宅後、妻に話すと、妻も驚いていた。

◇大手術

 令和4年、正月。家族とともに新年の宴を催した。大いに酒を飲む。愉快な宴だった。大手術の日程が迫る。正月休み明けに仕事の引継ぎを行った。

 【1月13日】

大学病院に入院した。大手術に備え、検査が続く。

 【1月17日】

妻と同席で手術の説明を受ける。手術中に死亡する確率は1・3%という。

手術同意書に署名する。

 【1月18日】

大手術の朝を迎えた。よく眠れた。窓のカーテンを開ける。快晴だ。見事な朝日が昇る。なんの不安もない。心境は澄み切っている。

 午前8時30分、手術室に入った。全身麻酔。手術中の記憶はまったくない。

  《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》

外科医3人。長時間に及んだ手術後、集中治療室に運ばれたようだ。

私は病床に横たわっている。執刀した外科医が声をかける。

「手術終わりましたよ。起きてください」

声ははっきり聞こえる。意識は鮮明だ。だが、体が動かない。

声を出せない。眼も開かない。

なんとか意志表示をしようと思う。あちこち、動かしてみる。

眼。顔面。左手。右手。指先。だめだ。まったく、動かない。

おや。右足の指が動くではないか。足の指をぴくぴく動かす。

「眼は開かない。声も出せないが、意識はもどりました。先生の声

も聞こえます」(と、私は伝えたかった) 

 だが、外科医は想定外の反応をした。

 「あ、けいれんが始まった」

 「違う。違う。これは意識が戻った意思表示なんです」

 (と、私は伝えたかった)

私は、力をこめてさらに右足の指を動かす。

外科医が心配そうに言った。

 「けいれんが激しくなった。脳に血栓が飛んだのかもしれない」

そうじゃない。そうじゃない。意識が戻ったことを知らせる意思表示なんですけど・・・。         

 完全に意識を失ったように見え、横たわって、眼も体も動かせない人でも「誰が来たか、わかる。枕元で自分の名前をいいなさい」とよく、いわれる。

あれは本当なのだ。体験した私には断言できる。(続く)

 (東京支部 S)