山口大学経済学部同窓会
鳳陽会東京支部
【2025年4月 トピックス】
1970年代 青春の下宿①
1970年代、私は山口大学経済学部に入学した。山口市亀山の近くに建つ鳳陽寮・北寮に入寮。蛮カラの伝統が色濃く残る寮で2年間暮らした。
◇県庁近くの下宿へ
3年生になった春。私は鳳陽寮を出て、県庁に近い下宿に引っ越した。
理由がある。
この下宿には2歳年上のH先輩(文理学部)が暮らしていた。
見識のある、親分肌の先輩だった。
私は鳳陽寮にいたころから、しばしば、H先輩の下宿を訪れていた。
この下宿は趣(おもむき)がある。
県庁と山口大神宮の間の清閑な住宅地の一角。屋敷は塀に囲まれている。武家のようなりっぱな門が建つ。
門をくぐる。敷地内に木造2階建て(4部屋)の下宿。1階の部屋には簡素なベランダがある。その先は四季折々の花が咲く庭が広がる。
私はたいそう、気に入った。
H先輩に頼み込んだ。
「先輩が大学を卒業して下宿を出たら、すぐ、僕が入ります」
先輩の口添えで大家のおばさんと会い、予約していた。
この女性はいつもきりっとした表情を浮かべ、毅然としていた。武家の血筋ではないかと思われる。
大家の表札には「S」とされている。
長州藩士の姓に同じ「S」家がある。おそらく「S」一族であろう。
◇下宿で安眠する
下宿は1階の6畳一間(だったと思う)。家具はベッドと机、本棚(いずれもH先輩のおさがり)。
ベランダには椅子とテーブルを置いてある。
冷蔵庫や電熱器などを買いそろえ、下宿暮らしが始まった。
下宿の一番、いいところは夜、安眠できることだ。
寮ではしょっちゅう、寮生が私の部屋に押しかけてくる。
激しく議論する。政治、人生、恋愛、文学・・・。
ギターを弾き、歌う。そして酒盛り。
深夜、寮生が帰ってようやく、布団にもぐりこむ。
すると、遠くから「ストーム」、「ストーム」の叫び声が聞こえてくるではないか。
南寮、中寮などがコンパのあと、盛大にやる公式ストームではない。
寮生が酒に酔った勢いで各部屋を回る個人ストームだ。
受ける方は身を正して待ち構えなくてはならない。
ただちに布団をたたみ、正座してストームの寮生を迎え入れる。
酔った寮生が腰に手を当て、背をそらして大声で名乗る
「山口県立○○高校出身。医学部1年、○○ 〇」
私も正座したまま応じる。
「福岡県立八幡中央高校出身。花の経済学部1年 ○○ 〇」
※注 ここで「花の」と美祢をつけるのは経済学部生に限られていた。
相手は酔漢だ。別に深い話をするわけでもない。
寮生は早々に立ち去り、隣の部屋に去っていく。
やれやれ、寝るか。
ようやく眠りにつこうとすると、また、聞こえてくるではないか。
「ストーム」「ストーム」・・・。
下宿にはストームがない。
夜、静かに眠りについた。
深い眠り。
【続く】
(鳳陽会東京支部 S)
