随筆 横目で眺めた経済学 ⑪ケインズ理論

山口大学経済学部同窓会

鳳陽会東京支部

【2025年7月 トピックス】

◆ケインズ理論の紹介

日本で初めてケインズの一般理論を全訳し、紹介したのは誰なのか。

著名な大御所の経済学者ではない。

大蔵省内の部局、理財局の旧調査課だった。

ケインズの一般理論は1932年刊行されたが、昭和17(1942年)に理財局調査部が一般理論の全訳を本邦初で行っている。

深刻な不況が生じた場合、経済を活性化させて失業者をなくすには、政府主導で財政出動することが必要であるとの理論付けを行ったのだ。

これはアダムスミスの予定調和・・・「神の見えざる手で市場がうまく解決する」という世界観を乗り越えたことを意味する。

施策を講じる当事者が、己のやっていることが間違ってはおらず、正しいと主張したいし、そう信じたい。そのための根拠を経済理論に求めたのだろう。

◆ハーヴェイロードの原則

恐慌や失業が生じた時の財政出動、すなわち「需要を起こせ」というケインズ理論を実践するには「ハーヴェイロードの前提」が重要だとされる。

ハーヴェイロードとは何ぞや。

それはケインズの生まれた町の名で、この意味するところはケインズ政策を実行するにあたり政府部門は賢者によって政策運営がされなければならないとされる。

具体的には不況時に政府が歳出増や減税で有効需要を創り出し、景気を戻すとしよう。

逆に、景気が回復したら自然増収でも足りない場合は歳出削減や増税で財政を均衡させるべしということを意味する。

なるほど、理屈だ。

理想でもある。

しかし、それはなかなか厳しい。それが現実だ。

◆そうは問屋が・・・

ここで問題なのは政府部門が一枚岩ではない、というのも問題だ。

政府部門とは公務員のことだが、公務員には省庁の事務官、いわゆる「役人」もいれば、政治家もいる。

政治家も公務員。「特別公務員」という公務員であり、中央官庁の中の役回りでは、大臣、副大臣、政務官として、事務官の上に立つ役職で、一般職員である事務官の「上司」にあたる。

また政治家と行政官(役人)、三権の中にあって、この両者は行動原理が異なる。

選挙で選ばれた特別公務員たる政治家は官庁で、大臣という名の最高権力者となる。

立法と行政。

三権分立の二つの柱。

体よく言えば「チェック&バランス」が望ましいが、官庁の役人にとって大臣とは、見上げるべき存在で、既述した通り、役人の上司に当たる。

官庁の中では最終的に権限持つのは大臣で、役人はその指示に従って、専門知識を駆使して黒子となって動くことになる。

◆人物紹介

ハーヴェイロードの原則をよく口にされていたのが長富祐一郎氏(1934年~2013年)。

財政経済研究機関Zの事実上の創設者だ。

(交通事故による結構きついハスキーボイスで、難聴気味の私はご発言内容を聞き取るのに相当苦労した)

人脈が豊富で、若手有望株の研究者の発掘にかけては大変眼が利いた方だ。

有望な若手の経済・財政金融学者を集めたシンクタンクZを創設し、経済・財政に関する精力的な調査研究を行った。

外国の研究者とも交流を深め、ここには若いころローレンス・サマーズ元ハーバード大学長(28歳でハーバード大教授に就任)も在籍した。

(学23期kz)

ローレンス・サマーズ 元ハーバード大学長

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