随筆 横目で眺めた経済学 ⑫ケインズ政策の泣き所

 山口大学経済学部同窓会

鳳陽会東京支部

【2025年7月 トピックス】

前稿で触れたケインズ主義による財政出動。

しかし、この策にはデメリットがあることにも注意が必要だ。

◆第1の問題が財政赤字だ。

特例国債(赤字国債)を発行、すなわち借金をして公共事業などの財政出動を行う。

しかし、減税や、公共投資の中身を決めるには国会を通さなければならず、議決までに半年から要する。

すなわち、金融緩和と異なりタイムラグがあり、これが悩ましい。

このラグを細かく見ると、まず景気は下降しているのかという「認識」のラグ、「手続きのラグ」、「効果発現までのラグ」がある。

効果発現時に、景気が上昇局面に差し掛かった場合は、インフレを加速させかねない。

すなわち、誤った財政発動になりかねないからだ。

(なお、財政赤字の問題については別稿で取り上げる)

◆第2に、この借金を返済することはできるのか。

景気が戻り、経済成長すれば自然増収で何とでもなる、ということはない。

税の経済成長に対する弾性値が一定としても、日本経済の潜在成長率が1%前後の世界では税の自然増に期待できない。

好景気による自然増収だけでは足りず、増税しなければならないが、国民は納得しない。反対する。

そうした場合、財政派赤字は不可逆的に悪化の一途をたどることになる。

◆第3に、物価に与える影響もある。

不況時には物価が下がって消費者の購買力が増え、景気が反転する契機が生まれるが、不景気の時に財政出動をすれば下がるべき物価が下がらなくなる。

インフレ、あるいは物価が落ちないという問題はケインズ政策の

泣き所でもある。

◆人物紹介

貝塚啓明先生。

貝塚先生は財政、税制、社会保障の分野のほか、金融論にも通じておられ、日銀参与にもなっておられた。

時のホットなマターに関する研究会を何本か立上げ運営したが、貝塚先生に座長になって頂くことになり、ご指導いただいた。

貝塚先生は「(福祉重視に傾きがちな)連立政権の下では財政赤字の是正は難しい」と、よくつぶやいておられた。

歴史学者・貝塚茂樹氏の長男で、湯川秀樹氏の甥に当たる。

京都のご出身。2016年に他界された。

(学23期kz)

貝塚啓明先生

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