山口大学経済学部同窓会
鳳陽会東京支部
【2025年8月 トピックス】
財政支出・・・どのような分野に、どれだけの金額を、どのタイミングで支出するか。これが難しい。
一般論でいえば次の通り。
◆支出のタイミング
どこにどのように支出するかは議会、すなわち国会で審議され、決定される。
緊急に支出すべきであっても、こうした手続きが終えるまでは支出の執行ができない。
また、逆に国会の審議を経た時点では経済状況が好転し、その時点で支出を行えば景気を過熱させるということにもなりかねない。
このように、減税にしろ、歳出増にしろ、財政政策は執行までに時間がかかり、この点、金融政策とは効果出現までのプロセスに時間がかかるというデメリットがある。
また、ダムや道路などの大きなプロジェクトは、完成した時点で需要予測との齟齬が往々にして問題になる。
プロジェクトでは完成までに意欲的で楽観的な見積もりがなされがちだからだ。
ダムの場合にはムダな支出となり、山の中に「県道」を作ったはいいが、犬しか通らない「犬道」となったという笑い話もある。
◆歳出分野(生産性の向上につながるのか)
もちろん事前には予算当局が予算を厳しく査定するが、しかし結果的にそれが果たして望ましい効果をもたらすのかという問題もある。
予算は我が国の成長力を高め、世界でリードできるような政治的経済的なパワーの強化につながる分野に使われるべきだ。
果たしてこうした分野に効果的に使われるのか、疑問なしとしない。
困るのは財政支出が弱体化した旧来型の産業の保護・延命に向かいがちなことだ。
こうした産業は生産性が低く、こうした産業に資金が回れば日本の生産性は向上していかない。
1990年以降の失われた30年間に、予算は1.8倍になったが、潜在成長率は3.7%から0.3%になったとされる。
経済学的な観点から理想を言えば、「倒産に瀕した企業は退出し、生産性の高い企業が参入」すれば社会全体として生産性が向上していくが、現実はそうはいかない。
政治的なファクターが入り込むからだ。
◆交付金の中長期的な効果
日本全国で、歳入の弱い自地方交付税交付税交付金を交付すれば、日本国オールで均質な成長がもたらされるのか。
短期的にはそれでよいかもしれないが、中長期的に賢い使い方になるとは限らない。
むしろ逆効果になっている。
毎年補助金を得ているところでは、歳入の項目に補助金を前もって計上する。
毎年、当て込んでいるわけだ。
しかし、補助金に頼らず、財政が好転したところには交付税・補助金は来ない。
努力したところには来ず、努力を怠っているところには毎年補助金が付く。
しかも県別にみると一人当たり地方税+地方交付税は一部、東北や四国の件で東京を上回っており、国による過剰な財政調整が行われており、これでは地方が自助努力を怠るのは当たり前だ。
均衡ある国土発展という美名に名を借りた、過剰な財政調整・予算配分は既得権益化しており、これを断ち切るのは容易ではない。
◆補正予算
もう一つ、緊急避難的に予算が膨れる場合がある。
補正予算だ。
予算の費目に挙がる項目は時のキーワード。
「緊急対策」という名目で年度末の財政出動が行われることが往々にしてある。
緊急対策という形での補正予算。IT、脱デフレ、地方創生、脱炭素、再生エネルギー、コロナ緊急対策・・・
こうした名目で緊急的に補正予算が組まれる。
最近では7月の参議院選で各党が主張した消費税減税、一律2万円の給付金、ガソリン税の旧暫定税率の廃止、また、米国との交渉によっては、コメの輸入拡大に伴い影響が出る農家への支援なども補正予算での対応になる。
バラマキにしないため、財政支出は原則B/C(ベネフィット/コスト)が1以上望ましいが、「緊急」の場合、査定が粗くなりがちだ。
また、年度末の時期の予算消化は時として、予算消化のための残業が発生することもある。
使い残しをすれば、次年度は予算が付かないことを恐れるからだ。
「緊急事態」への対応としての補正予算の乱発は、財政赤字が拡大する大きな要因となっている。
(学23期kz)
