古き、よき酒場「大万」②
◇日本一安い(?)フグ鍋
1970年代、山口市道場門前に古き、よき酒場「大万」があった。
連日、学生や市民で、にぎわった。
店の壁には安くて、おいしいメニューがずらりと貼ってある。
おでんの一品、卵、厚揚げ、ちくわ、大根、じゃがいも、こんにゃく、ごぼてん・・・。
一品料理の餃子、玉子焼き、肉野菜炒め、湯豆腐、冷奴、肉じゃが・・・。
寒い季節に登場するのが、ふく(フグ)鍋だ。
小さな鍋に骨付フグ、豆腐、そして白菜とネギ。
私の記憶が正しければ、580円だったと思う。日本一安いフグ鍋と評判だった。
骨にフグの白身がへばりついており、舌の先ですくいとるようにして食べる。
それでも十分、おいしかった。
しんしんと冷える夜、友とフグ鍋を囲み、熱い酒を飲む。
ああ、あの日に戻りたい。
◇メニュー順にどんどん注文
ある夜、私は後輩たちを連れて大万ののれんをくぐった。
アルバイトの収入がたっぷりあった。
「よし、今夜はおれのおごりだ。メニューの端から順番に全部、
注文しよう」
後輩たちは本当に順番にどんどん注文し、次々にたいらげていく。
だが、若い胃袋にも、限界というものがある。メニューの最後までたどり着くことはできなかった。あの夜の贅沢な宴・・・。今も思い出す。
◇消えた酒場
山口大学経済学部を卒業。永い歳月が流れ、山口を再訪した。
―今夜は大万で飲む。と、決めていた。日が暮れて道場門前を訪れた。
だが、古き、よき酒場「大万」は消えていた。隣の映画館「金龍館」(あの、仁義なき戦いを見た)も閉館していた。青春の酒場がない。喪失感・・・。悲しかった。
いつ、大万は閉店したのだろうか。ご存知の方、教えて下さい。
(元山口大学経済学部生 S )