冬山合宿

              冬山合宿  

1970年代の冬、山口大学ワンダーフォーゲル部は冬山合宿を行った。

重いリュックを背負って山口を出発。列車とバスを乗り継いで広島県と島根県の

県境にある山地に到着した。ふもとにテントを張り、寝袋に潜り込んで宿泊した。

 翌早朝、起床。空は青く、晴れ渡っている。

さあ、出発だ。部員6人は意気揚々登っていく。

先頭を行くのはサブリーダーだ。1回生、2回生が続き、最後尾はリーダー。

 冬山合宿のリーダーはN先輩(経済学部3回生)だった。

中腹まで登った。山は雪でおおわれている。登山道が見えない。

頂上の方向を目指し、ひたすら、まっすぐ、登っていった。

          ◇天候急変

 8合目あたりに達した。頂上が見える。あと、ひと息だ。

ところが、突然、空が暗くなった。風が強く、吹く。雪が降る。

猛烈な吹雪となった。リーダーが登山停止を命じた。

 「全員、その場で足踏み」

 吹雪の中、歩みを止めると、身体が冷え切る。動けなくなる。

重いリュックを背負ったまま、足踏みをして体温を維持する。

 1時間ほど経過した。吹雪はますますひどくなる。リーダーが指示した。

 「リュック下ろせ。チーズを出して足踏みしながら食べろ」

部員は非常用食糧としてチーズひと箱をリュックに入れている。

チーズを取り出し、立ったまま、かじる。エネルギー補給だ。

          ◇リーダーの決断

 暫くして、ようやく吹雪が収まった。青空が広がる。頂上が見える。

さあ、登山再開だ。

 ところが、リーダーが下した決断は意外なものだった。

登頂断念。下山。

 ―えっ、天気は回復した。頂上は目前なのに・・・。

 リーダーの決定に従い、私たちは未練を断ち切って下山した。

こうして私たちは全員、無事に猛吹雪の冬山から生還することができた。

 若きリーダーの見事な判断と決断。いま、思い出してもほれぼれする。

(元山口大学ワンダーフォーゲル部員)