仏教を廃し、釈迦の教えを棄却する
山口大学経済学部同窓会
鳳陽会東京支部
【2023年5月トピックス】
◇海外に流出した古美術品
海外の有名美術館では仏像コレクションを目玉にしているところもある。
モースやフェノロサのコレクションを集めたボストン美術館、鉄道王フリーアのコレクションを集めたワシントンのフリーア美術館やメトロポリタン美術館、欧州ではギメ東洋美術館や大英博物館が有名だ。
こうした仏像や仏具のコレクションの多くは明治期に日本から流出している。明治維新以降、社会構造の変化により、「大名道具」と呼ばれた大名やその家臣たちが「家宝」として持っていたような古美術品が売られている。当時は古い物より、欧米先進国の最新技術や知識に目が向き、ただ同然の捨て値で大量に売りに出されたのだ。
こうした「大名道具」が売られた背景にはこうした要因のほかに、寺が暴力的に取り壊され、そこに収納されていた仏像や仏具、巻物など、仏教美術品が被害にあい、ただ同然で売られた時期があった。明治初めの廃仏毀釈運動だ。
◇神仏分離令
廃仏毀釈運動に火が付いたのが明治元年(1868年)の神仏分離令であった。
神道と仏教。
なぜ「神仏分離」なのか。神仏分離とは何なのか。
分かったようで分からない。
なぜ仏教伝来以降、千年にわたり神仏習合という形で社会に溶け込んでいた宗教の伝統を壊してまで、神・仏を分ける必要があったのか。
それは幕末の黒船襲来だ。
黒船のインパクトは蒸気船や大砲だけではなく、特に為政者にとってはキリスト教という異教だったかもしれない。
欧米の列強国の宗教は一神教のキリスト教だ。
当時、黒船騒ぎの前にアヘン戦争でキリスト教国の支配下に置かれた清国の痛ましい状況が日本にも伝わっており、幕府はこれに大きなショックを受けたのだ。高杉晋作この光景を上海で目に焼き付けている。
しかしペリーだけではない。外国の列強国が日本医押し寄せている。
開国はもはや免れない。
開国となればどうなるか。キリスト教は排他的な一神教であり、神の前には「ミカド」も「ショウグン」も否定されかねないとの類推が働く。
これと対抗するためには、国民の宗教観を整え直し、キリスト教に対応するほかはない。
こうアドバイスしたのが、明治新政府に絶大な影響力を持っていた宗教家で禅僧の鴻雪爪(おおとり・せつそう)であったという。
すなわち、「外国伝来の仏教」を排し、日本古来の神道を純化することで外国勢と向き合うべきと説いた。
このため、大政奉還を受けた明治新政府は王政復古を宣言。天皇による君主制を復活させ、神道の国教化が目指された。
◇過去の例
日本は大陸とは日本海で隔てられており、米国との間には太平洋が横たわっているため古来、敵国の襲来はさほど多くはなかった。しかし外国襲来に触発されたナショナリズムの高揚の結果としての宗教の純化は過去にも例がみられる。
鎌倉時代には元寇の襲来があった。
この時に神職の吉田兼倶によって大成されたのが神道唯一教(唯一神道)で、本地垂迹ならぬ神が本地(真の姿)で仏が垂迹(仮の姿)とする、いわゆる本末転倒の「反本地垂迹説」が流行り、江戸期まで続いた。
◇廃仏毀釈運動
明治新政府の神仏分離令は、本来はあくまでも神仏習合の禁止、神社の仏教色の排除であり、寺院や仏像・仏具の焼却・廃棄することを命じたものではなかった。
しかし、神仏分離令が寺社を燃やし、仏像を取り壊す廃仏毀釈運動という形で全国に燃え広がったのには、奢侈に走る「堕落僧侶」に対する民衆の怒りという要因もあった。
・・・続く
(学23期kz)
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