山口大学経済学部同窓会
鳳陽会東京支部
【2024年8月 トピックス】
宇部・三陽小野田支部 MYZ(学17期)さんからの投稿
1.きっかけ
Eさんと参加している「豊言倶楽部」最後の会合が、今年の3月に開催された。その折に、Uさん(元、宇部市琴芝小学校校長)が、皆さんにと既に読み終えた数十冊の「本」を、ご提供された。私は、その中から葉室麟著「蛍草」を頂戴した。「蛍草」は、数年前に、NHK「土曜時代ドラマ」(主人公の奈々役 清原果耶)で放映され、毎週心を揺さぶられて観ていたことを思い出し、原作を読んでみたい気持ちになったからである。頂戴したその日のうちに読み終えたのは、後述のとおり必然であった。
2.「葉室麟」について
人間の機微を描いた「藤沢周平」の時代小説、「蝉しぐれ」をはじめ数冊読んで、彼の端正な筆致で、人情、哀愁、喜び、悲しみを描いてあまりある世界を、私は学んだ。読み終えた後は心が洗われ、こんな世の中だが、なんとか生きていこうと改めて背中を押してくれる作品と感じていた。この藤沢の後を継ぐ作家と目された一人が、「葉室麟」であるといわれている。私は、正直「葉室麟」の時代小説はあまり読んだことはなかった。そこで、「葉室麟」についてインターネットで検索してみると、数多くの作品を残しており、彼の作品の中でも映画化やテレビで放映された作品も数点あった。前述のきっかけもあり、続けさまに「蜩ノ記」「陽炎の門」を読んだ。まさしく、藤沢文学の後継者だと理解できた。しかし、葉室は2017年12月(67歳)にまだまだこれからという時、この世を去ってしまったことは、残念だ。
3.藤沢系譜の時代小説について
人生の哀歓を描いてなお生きる力を与える小説は、生半可な腕では書けない。人生経験を重ね、洞察力、文章力がないと太刀打ちできない。おいそれと書き手は現れない。それなのに現代はコロナウイルスが蔓延し、様々な差別意識は吹き出し、ネット社会は広がっている。この混迷の時代に、心が癒され、明日への活力を与えてくれる小説はますます必要とされている。「苦しみ」「しがらみ」「制約」の世を生きる武士や庶民の姿を通じて醸し出している、「人間の矜持、志、道、おてんとうさま」に、人間本来の「善なる姿、美しさ」を藤沢、葉室作品は思い起こしてくれる。
4.藤沢、葉室に続く「時代小説の新鋭」は
藤沢系譜の作品は、名もなき下級武士、庶民の生活から日本人の美しさが匂い立つものに、私たちの心をとらえて離さないのではないか。この時流を汲んで久々に登場したのが「砂原浩太郎」の「高瀬庄左衛門御留書」(2021.1月第1刷、4月に5刷発行)と言われている。早速、宇部市立図書館で検索したが未だ購入されていない。仕方なくアマゾンで購入(1,800円)した。読後、改めて藤沢、葉室の後継者と理解できた。舞台は「神山藩」(架空の藩という設定は藤沢の海坂藩、葉室の羽根藩を思い起こさせる)、様々な迷いもあった人生を振り返った主人公が、今の人生を受け入れる姿。そして、生きることの喜び、悲しみ、あきらめも希望もすべて吞み込んだ物語である。しみじみと胸に迫るものがあった。
(以上)