随筆 横目で眺めた経済学 ⑩不況への対策

山口大学経済学部同窓会

鳳陽会東京支部

【2025年7月 トピックス】

◆社会人になって「経済」に関わるようになった。

私が関わったのは経済学のジャンルでいえば、マクロ経済、財政、税制、統計学、雇用、国際経済。このほか経済史や各国の地域経済にもかかわった。

もちろん経済・財政と切っても切れない関係にある金融の世界も勉強した。

◆景気対策の現場

経済には浮き沈みがあり、不況の到来は避けがたい。

かつて世界経済は大変な時があった。1920年代末から10年ほど続いた大恐慌で、「4人に一人が失業」と言われた時期だ。

日本経済も大きな荒波をかぶった時期がある。

2度のオイルショックにより物価上昇率が加速、消費は落ち込み、企業の業績も悪化し、高度成長を続けていた日本経済が戦後初めてマイナス成長となったのが1974年、昭和49年だった。

こうした事態になると、景気対策を求める声が上がる。

失業者や、業況が悪い企業から、景気を何とかしてくれとの要望が押し寄せる。

また、政治の世界もこうした事態を強く憂慮する。次の選挙が戦えないからだ。

◆政府投資

景気が悪いまま市場に任せておいても、ただちに事態は変わらない。

この時には政府の出番だ。

景気対策を打つに当たっては、各種ツールがある。

規制緩和、金融緩和などもあるが、これらが景気に与える影響は間接的であり、このため時間がかかる。

景気対策のうちで最もインパクトがあるのが財政出動、いわゆるケインズ政策であり、減税よりも公共投資の方が、インパクトが大きい。

通常は市場に任せ、不況になると財政出動で需要喚起を行う。

「市場任せ」と「政府の出番」とのハイブリッド、いわゆるサムエルソンに代表される新古典派総合の世界だ。

昭和の時代は社会資本が不足しているということも背景にあったため「ケインズ主義による公共投資」が多用された時代でもあった。

◆セイの法則を超えた失業

ケインズ理論が脚光を浴びたのは大恐慌からの脱却策が契機だろう。

需要も供給も地域的に限られ、プレーヤーが少数であるような牧歌的な時代は価格・賃金・利子率の伸縮によって経済の均衡がもたらされ、供給が自ら需要を作り出すといったセイの法則が妥当したかもしれないが、経済が急速に発展し、また機械化に伴い供給力の水準も恐ろしく高まった状況では、モノがあふれ、市場で捌けない事態が生じる。

こうした状況では、市場に任せておけば、いつまでたっても景気は戻らず、失業者は職に復帰できない。

こうした牧歌的な時代から急速に経済が発展すれば各所で目詰まりが起きる。こうした時代が20世紀に到来したともいえる。

失業というのは深刻で辛い。家族にも深刻な影響を及ぼす。

こうした長期不況、それに伴う失業は見えざる手が支配する古典的な世界からすると「不都合な真実」にあたる。

こうした事態が生じた場合は政府の出番となる。

財政出動によって景気を取り戻すことが政策的に重要になった。

日本の当局においても、経済を運営するにあたり、景気対策を講じる事態が生じた場合、経済対策の根拠、正当性を主張するために、経済・財政理論を固めておく必要があった。

つづく

(学23期kz)

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