山口大学経済学部同窓会
鳳陽会東京支部
【2026年8月 トピックス】
岡山支部 岡山Bさんからの投稿
◆7月19日21時からのNHKスペシャル
「トヨタ・・・変革の開発現場」(インサイド・トヨタ)と言う番組があった。
その番組案内には、トヨタ開発現場ルポとあった。
しかし、番組の趣旨を敢えて一言に集約すると”世界のトヨタが今持つ危機感”ということに集約できるかもしれない。
「國を思うて、何が悪い」の著者は阿川弘之。
トヨタ関係者の中には「日本のものづくりを思うて、何が悪い」と息巻いてみたくもなった志士もいたかもしれない番組だ。
◆あのトヨタが・・・ ここまで その内部を公にするか 。敢えて言えば、 厳しい内容、場面も赤裸々に、かつ勇気をもって晒す。
(もちろん番組制作グループが作成したデモをトヨタ自身が放送前には、内部で検証したうえで準備されているものであろう)
この番組のすべてを要約する術は持ち合わせてはいない。しかし、このような番組が時間とともにただ流れていくのは・・・
その一端でも目に留まればこの拙文が存在することになる。
◆経営層が持つ、そして従業員各員が共有する、自動車メーカー一社の危機意識といった水準の問題に止まらない。
日本のリーディングカンパニーとしてのトヨタ自身が”日本のものつくりが今、将に現場で取り組んでいる、そしてこれから直面する「危機」”に対する警鐘を打ち鳴らしているのではないだろうかとさえ感じられる。
番組では、製品企画、設計、技術、生産技術、製造(技術)の各部門の生々しい現実が出てくる。
その仕事を進めるうえでの部門間の連携、時には軋轢、開発最終決定段階の葛藤をもオープンにしている。
◆取材内容は次の三本柱から構成される。メインは何といっても以下で述べる①、そして、”クルマ屋”トヨタとして譲ることの出来ない、そして ないがしろ(蔑ろ)にすることのできない”クルマ屋”姿勢として②③をということになろう。
①既に累計5700万台の販売実績のある大衆車の代名詞カローラの商品開発に関する取材。
1966年から製造されていた日本を代表する大衆車、もう12代のモデルチェンジを経験している。(今までの標準的なモデルチェンジの周期は6年)
今や世界150か国での販売実績を持つ。
②強大な投資を必要とし、かつ次世代の製品、安全品質のベースとなるプラットフォームの開発。
従来の開発手順は、プラットフォーム(共通土台)→アッパー(上物の箱)の流れとなる。
今回はその両者の開発を並行して展開、さらにガソリン車、BEV(電気自動)車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車までの4方向を
一挙に開発を進める。
③ 車体の真ん中にエンジンを置くミッドシップタイプのスポーツ車の開発。
この段になると、国内の同業他社の車の優位性、又ドイツ車の絶対的優位性についても吐露する。つまり小手先の空力特性とかで対応しようとするのでなく、車が走る根本的原理、”自動車とタイヤの関係性を制御する技術”で圧倒的に凌駕する外国車についての遅れを認める。
◆他の場面で二人の技術者に問う。日本の技術は世界の車作りでトップランナーにいるのではないか? いや、まだ追いつき切れていない部分はあるのか?
二人の開発者は語る。
「長く自動車の開発に従事してきて、見えなかったものがだんだん見えてくるようにもなった」「一方どうしても追いつき切れていない技術も・・・」とも語る。「クルマ屋」として、車本来の走り、そして、操作性の楽しさそのものを追求すると・・・・・
「まだ車本来が持っている「走りの良さ」で改善することはありますか?」と記者から車に対する”究極の 価値観、コンセプト”が追求される。
奇しくも二人の口からは「あります!」と口をそろえたかのように同じタイミングで言葉が揃う。確かにあるのだ!
番組の中で象徴的な映像は[Toyota Technical Center]で始まり、最後の映像が [Toyota Technical Center] で結ばれると言うことだ。
トヨタの技術の殿堂「技術本館」 そして、さらに目を引くのは「ZE」と「良い品 良い考」と言う二つの看板 。
・ [Toyota Technical Center]これだけ全世界に展開されているグローバル企業、その技術本館。
販売拠点、生産拠点では多国籍化している企業のベースはあくまで豊田市となる。そして、テクニカルセンターなる言葉でなく、「技術本館」という名称にも拘っている。
研究、企画、評価、製品開発、製造技術の確立はそこでなされているという。
・「ZE」はアルファベットの最後の「Z」をとって、このプロジェクトのチーム名としている。全社・全部署へ号令をかける中枢の技術者集団。「E」はエンジニアリング/設計・企画。
そのプロジェクトが取り組む課題、ミッションの規模からするとあまりに ちっちゃな、そして簡素な「ZE」の看板だ。
・製造現場に掲げられている「良い品 良い考」は 1953年に制定されたトヨタ自動車の代表的な標語・理念。従業員一人ひとりが「よい考え」を出し合い、創意工夫を重ねることで「よい品」を安くつくるという、同社のものづくりの原点を表す。
このことが今や世界の共通語の一つともなっている「KAIZEN」(改善)に通じるのであろう。
◆今回の商品開発における重要なミッションがある。それは自動車の車体、筐体(土台)の基礎となる次世代のプラットホームの開発という案件が絡むことだ。商品開発にはよくコードネームというものが用いられる。 これが先に述べた 「ZE」だ。
従来の自動車メーカーの世界は企業内、企業グループ内で蓄積され、共有されていた技術、知識を垂直統合する形での製造構造で構成される。
垂直統合する形での製造構造に対する反対の極にある言葉は、一般的には水平統合(水平分業)となる。
製造メーカー各社が製造した製品の各部品や設計を標準化したものを組み合わせる「モジュール化」という構造でものつくりが出来る時代となった。今や、自動車製造といえどもその世界の一部となり、大きく変えつつある。
米国のテスラ、中国のBYD等が既に脅威となっている。
メーカー、系列会社の技術の積み上げの上に成立する世界から、いわゆるモジュールで構成部品の組み合わせでも自動車ができる時代になった。
番組の中で紹介されていたよう、BYDの商品開発は24時間、三交代で開発が進められる。嘗ての栄養ドリンクの宣伝の様、”24時間戦う!” が現実化されていると言う。
当然の結果とも言えるかもしれないが、BYDの新商品開発(モデルチェンジ)までの開発期間は2年、日本の1/3が時間軸となっている。
その上、これから自動車の動力として主流になるであろうと言われている電気自動車、そのバッテリー開発技術においても日本を凌駕しているとも紹介されていた。
トヨタの開発の技術者が口にする。「競争相手は”上へ”上へ”と高みを目指して行動している。一方、日本が従来のママ、また、従来の考えの延長で行動していると大きく負け。」既にその兆候はないか!?
「少し前の時代は”トヨタ一強”が問題だと国内で批判されたことがあった。しかし、今はその”一強”が崩れつつあると言った一企業のことにとどまらず、これから”日本という国のものつくり”が世界では負け続けるのではないか?」と言う強い危機感である。
グローバル市場の競争の厳しさから、本来の再生産に必要な利益さえ十分獲得することさえ難しくなってきている。
(つづく)
