山口大学経済学部同窓会
鳳陽会東京支部
【2026年9月 トピックス】
◆池田満寿夫氏との対談
対談本「数学とエロチシズム」(講談社、1977・昭和52年)
私の手元には池田満寿夫との対談本がある。話題が実に多岐に亘っており、興味深い。
両者は3歳違いで年令が近く、話はざっくばらんで、タバコをふかしながら談笑し、冗談を言い合いながら、話が続くこと、つづくこと。この二人、相当相性がいいと見た。
二人とも大学入試で浪人生活を経験している。
池田満寿夫は3度も東京芸大に落ちた。広中も京大に受かる前に1年、浪人生活を送っている。
池田は1934(昭和9)年 奉天(現瀋陽)生まれ。
1945年に長野市に引き揚げ。
1952年長野北高校を卒業後上京。
東京芸大を3度受験し、不合格。
街頭で絵画の創作活動。
1960年、26歳の時に第二回東京版画ビエンナーレで文部大臣賞を受賞したのを手始めにベネチア・ビエンナーレの版画大賞など多くの受賞を重ね国際的な版画家として活躍。
1977年には「エーゲ海に捧ぐ」で芥川賞を受賞。
1979年「エーゲ海に捧ぐ」をカンヌ映画祭に出品。
1997(平成9)年、3月、63歳で急逝。
◆容易ではない才能の評価
この二人が、大学入試をはじめとして人の才能をどのようにして評価し、どのようにして人を選抜するかについて議論している場面に目が留まった。
以下は対談本「数学とエロチシズム」(講談社、昭和52年)に載った両者の対話だ。
対談の中身は以下のとおり。
池田) 米国では40歳台になっても、思い立ったら大学に入れる。
広中) 日本と入試の方法が違う。米国は地域別割り当てがあること、面接や推薦も合格判定に大きな役割を果たし ている。すなわち、特殊な技能、特別の経験、感覚を持った人は学力テストの枠外でも入学を許可することがある。
主婦でもボランティア活動などの仕事が認められれば、面白いケースだから一応入学させてみようとなる。
しかし、日本では子育てを終え、時間ができ、意欲のある主婦が大学に入って勉強しようと思っても、学力テストで落とされる。
池) 僕なんかでも許されれば、数学を習いたいですね。
広) 東大は無理だけど、ハーバードなら入学できますよ。しかし、東大に入れば、ほとんど確実に卒業できるが、ハーバードなら、卒業は大変ですよ。
池) 40歳を過ぎて学校へ行きたいという考えを持ちますね。
広)池田さんのような才能を落とさない学校も作ろう(笑)
池)落とさない学校が欲しい。100人(の志望者)がいて、その中で本当に才能のある人間を果たして見分けることができるのか。人間の才能を見分けることはできないと思うけど。
広)実際、不可能だね。可能だとしても非常に難しいね。試験のシステムは手っ取り早いからやっているだけで、それが最善の方法だからやっているわけではない。数学などはかなり技術が必要な学問だから試験の意味は大きいが、芸術家の場合は、ほとんどゼロかもしれないね。
池)芸術家はゼロですね。
広)数学の場合でも、試験だけでみると出来そうなのが案外伸びなかったり、そうでもないと思っていたやつが意外と伸びたり、将来大成するためには、いろんなファクターがあるから、非常に難しい。
池)まあ、一人を真面目に選ぶとしたら一年かかるね。
広)一年でも完璧とまではいかないね。十年はかけてみないと(笑)
池)選ばれなかったということでガーっと出てくる人間がいるわけですよ。僕なんかその一人です。全部閉ざされちゃって、<これは、俺一人でやるしかしようがない>って。
だけど閉ざされたためにガタガタ落ちるやつがいるし、逆に入って安心し、ガタっと崩れるやつもいる。
◆大学院教育について
広)大学院の水準に達するまでにいろんな才能が落とされているわけよね。いろんな可能性もね。その点アメリカの場合はかなり危険も冒していますからね。
技術的には駄目だと思っても、何か面白みがあったら採ってみるとか。
だから、アメリカではハーバードに入学したからといって特別才能に恵まれているとはいえない。
著者追記
◆懸念
近頃では学校推薦や総合選抜入試(旧AO入試)が増えており、2025年度入試では一般選抜(旧一般入試)は46.3%と、少数派になっていると報道されている。
一般入試が少数派に変わっており、入学し易くなっているようだ。
他方、対談本で広中先生が仰せのように、日本の大学が卒業しやすくなっているのは昔から変わっていない。
ならば・・・「入学し易く、卒業しやすい」ということになるが・・・これで大丈夫なのか。
国際的な大学ランキング(THE)でも東大ですら20位以内に入れない状態が長いこと続いている。
日本は大丈夫か。
日本の将来を支えるのは日本の若者だ。
入試制度の変化が、教育の劣化、引いては日本人の劣化、国力の低下に繋がらないことを祈る。
(学23期kz)


