青春のザビエルの塔①

         青春のザビエルの塔①

1970年代の早春、わたしは高校の黒い制服を着て、山口駅に降り立った。

明日、山口大学経済学部の入学試験に臨む。

 改札口を出る。駅前通りに立った。愕然(がくぜん)とした。

人がいない。活気がない・・・。

 ―こんな街で青春の貴重な4年間を過ごしたら、

  時代に取り残される。受験はやめた。浪人しよう。

 その場で、決心した。

         ◇天上から鐘の音

だが、せっかく、九州から列車を乗り継いで山口まで来たのだ。

名所を見物してから、帰郷しよう。

駅前通りをまっすぐ進む。早間田交差点を渡った。

そのときだった。

天上から美しい鐘の音色が降り注いできた。

空を見上げる。

亀山の森。教会の白い塔がすっくとそびえている。

ザビエル記念聖堂の塔だった。

 戦国時代、フランシスコ・ザビエルは山口を訪れ、

布教活動を行った。そのゆかりの教会なのだろう。

 亀山のふもとに山口大学経済学部の校舎が建っていた。

格調高い本館と講堂。いいじゃないか。

しかも、正門前広場ではヘルメットをかぶった学生たちが

政治集会を開いている。

 これなら、時代に取り残されることはないだろう。

―よし、明日、本気で入学試験に臨もう。

 受験の結果、なんとか現役で合格することができた。

        ◇クリスマスの夜 

 ロマンチックなクリスマスの夜。

学生たちのデートコースは亀山のザビエル聖堂だった。

寒い夜。なぜか、経済学部の男子学生と教育学部の女子学生の

カップルが多かった。

 甘い、青春の思い出・・・。

        (元山口大学経済学部生)